最高裁判所第二小法廷 昭和25年(れ)757号 判決 1950年11月10日
主文
本件上告を棄却する。
理由
弁護人稻田喜代治の上告趣意第一点について。
原判決は被告人が公務員たる高津俊一、風井秀次の両名に判示の各金員を同時に交付したという事実は認定していないのである。そうして所論のように、被告人が二千五百円と千五百円の二口の金包を、何れの金包を何人に贈与するかを指示せず、同時に同場所で判示竹内寿一郎を通じ高津俊一に交付したとしても、右高津に対する金員の交付行為を以ってしては未だ同人に対する贈賄行為の成立あるに止り、風井秀次に対してはさらに情を知った右高津が判示の金員を風井に交付したときはじめてその実行々為があったものというべきである。然らば被告人の高津に対する贈賄行為と、風井に対する贈賄行為とは別個の贈賄行為であって、原判決がこれを併合罪の関係にあるものとして処断したのは相当である。なお論旨引用の各判例はいずれも本件に適切なものでなく論旨は理由がない。
同第二点について。
旧刑訴法第四〇三条にいわゆる原判決の刑より重い刑を言渡すというのは判決主文における科刑を原判決にくらべて重くするということ、当裁判所の判例とするところである。(昭和二四年(れ)第一四八四号同年一〇月一日第二小法廷判決参照)そうして論旨引用の各判例もいずれもこれと同旨に出でたものである。されば原判決が第一審において有罪とせられた(イ)(ロ)の各贈賄事実の中右(ロ)の事実を無罪としながら、なお第一審判決と同一の刑を被告人に科しても旧刑訴法第四〇三条に違背しないこと明らかである。論旨は理由がない。
弁護人塩坂雄策の上告趣意について。
原判決は被告人が高津俊一、風井秀次に対してそれぞれ判示の各金員を贈賄したとの事実を認定し右二罪は併合罪の関係にあるものとして被告人を処断しているのであって、原判決の擬律の正当なこと前記稻田弁護人の上告趣意第一点において説明したとおりである。そうして、原判決の被告人に対する科刑が実験則に違背するものとはとうてい認められないのであるから論旨は理由がない。
よって刑訴施行法二条旧刑訴法四四六条を適用し裁判官全員一致の意見により主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 霜山精一 裁判官 栗山茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎)